忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/11/22 08:42 |
日記 -EP2-


どうか忘れないでください

貴方の大切な人を―――

どうか覚えていてください

貴方を愛してくれた人を―――

「―――うっ」

体中に走る鈍い痛みを感じながら、私は身を起こしました。

「ここは・・・?」

見渡すかぎり一面の荒野。
濁ったオレンジ色の光を放つ太陽が地平線の上に乗っかっています。
草花は一切無く、黄土色の乾いた大地が、ヒビを走らせながら続いています。


「・・・ネクロ!?」


辺りを振り返ると少し離れた先に、
彼がうつ伏せで横たわっているのが見えました。

「ネクロ!ネクロっ!」

黒い甲冑の姿のまま横たわる彼の背中からは、
圧縮された魔力を受け、シュウシュウと水が蒸発するような音がしていました。


「―――熱っ!」
 

抱え起こそうとしましたが、彼の身体は焼けた鉄のように熱く、
素手では触ることさえ難しいほどでした。
それでも、どうにかして彼を起こそうとしたとき―――。
 

「―――ふぅ、これでゆっくり話せるねぇ。」
 

視界が突然、影で薄暗く覆われました。
 

「久しぶりだねぇ、ネイリ君。
 もっとも、キミは私の記憶など無いのだろうが。」
 

「黒い・・・ローブ!」
 

オレンジ色の光をさえぎるようにして、黒いローブが私の目の前に現れました。


「おやぁ、案外たいした傷じゃないねぇ。
 身体の半分は持っていくつもりだったんだが―――。
 これも宝玉の力、と言うところかな?」


横たわるネクロを一瞥すると、黒いローブは嬉々とした声を発します。


「あなたは・・・誰ですか?」


「私かい?
 そうだねぇ、ここに無様に横たわる彼の古い友人とでも言っておこうか。」


「何故こんな事を・・・!?」


嘲笑するかのような声に、私は声を荒げました。


「まぁまぁ、説明と言うものは、順序を追って、
 それでいて風味豊かに話すものではないかな?」


「手短にお願いします。場合によっては容赦はしません。」


「おお、こわい。
 キミも、彼とおんなじことを言うんだねぇ。」


さて―――。と一息つくと、黒いローブはゆっくりと口を開きました。


「キミは彼がこの島にきた理由を知っているかな?
 六つの宝玉を集めるため、と聞かされているかな?」


「―――。」


「では、何故、こんな石ころをあつめるのか。
 石そのものに価値か?
 強大な力か?
 興味本位か?
 それとも・・・
 すべて集めると、願いが叶うから?


 大げさな身振り手振りで話す黒いローブを沈黙のまま見つめます。


「では、キミは考えた事があるだろうか。
 彼の願いは何であるのか、と。」


「私達が穏やかに暮らすためだと・・・。」


「ああ、惜しい。
 だが残念だがハズレだ。いや、大ハズレかな?
 正解は―――。」


キミを人間に戻すため―――だよ。


沈黙が流れます。
オレンジ色の日の光は相変わらず黒いローブにさえぎられています。


「どういうことですか?」


「言葉通りの意味さ。
 キミはもともと人間だった。
 彼は、キミを人間に戻すためにこの宝玉を集めているんだよ。」


私が人間?
魂喰らいとして生まれ、人の魂を喰らいながら五百年を生きてきた、
この私が人間?


「五百年ほど前の話です。
 とある小さな村に二人の兄妹が住んでいました。」


黒いローブが芝居がかった口調で話を続けます。
手にはいつのまにか、灰色の背表紙の本を持っていました。


「妹思い兄思いのとても仲の良い兄妹でした。
 親は居ませんでしたが、貧しくも幸せに暮らしていました。」


「・・・。」


「ところがある日、妹が流行病にかかりました。
 放っておくと数日の後に死に至る病気でした。」


黒いローブがページを一枚めくります。
時折吹く強い風が、乾いた大地から、砂埃を巻き上げます。


「兄は薬となる花を探すため、岩山を登り始めました。
 ようやく山頂で花を見つけ、摘み取って妹の元に帰ろうとしたそのとき―――。
 兄の居た足場は崩れ、斜面に叩きつけられた兄は、
 妹に薬を届けることなく、息を引き取ってしまいました。
 それを哀れんだ山の神は、兄にもう一度、命を与えました。
 黒い猫の姿で命を得た兄は、山を駆け下りると妹に薬を飲ませました。」


沈黙のまま、私は話を聞き続けました。


「妹は一命を取りとめましたが、兄の姿が見当たりません。
 一匹の黒い猫が居るだけで、妹は一人ぼっちになってしまいました。
 病にかかった家に近寄る村人が居るはずもなく、
 もともと弱っていた妹は、また次第に衰弱していきました。」
 

また一枚、黒いローブがページをめくります。
横たわる彼は、まだ気付く気配はありません。


「猫となった兄は、何もできず、ただ祈り続けました。
 いよいよ、妹が身動きがとれなくなった時、
 この兄妹を哀れんだ一匹の悪魔が、兄に語りかけました。


 "汝、この娘を生かしたいか"
  ならばこの娘の記憶と引き換えに、もう一度汝らに生命を与えよう。"


 "妹が助かるのなら―――"
 

 "ならば与えん、魂喰らいとしての永遠の生命を。
  そして、魂を喰らう者としての永劫の業を―――。"」


こうして、また一匹の魂喰らいがこの世界に生まれました。


黒いローブは、パタン、と本を閉じました。


「さて、お分かりいただけたかな?」


私の頭の中をいろいろなものが、グルグルと駆け巡っていました。
宝玉を集める目的、魂喰らいである自分自身、
そして、とある兄妹の話。


「じゃあ、ネクロは、この"人"は―――。」


「クックック、飲み込みが早いのは良いことだねぇ。
 もっとも、キミは気付き始めていたのではないかな?
 宝玉を得るたびに映る、非常に曖昧だが鮮烈な映像。
 まるで強すぎるカメラのストロボのような―――。」


宝玉を手に入れてから、私は、妙な違和感を感じるようになっていました。
誰のものとも解らない、非常に曖昧な映像が、時折脳裏に蘇るのです。
自分のものでも無いはずなのに、"蘇る"誰かの映像。


「では、あなたは?
 何のために、私にそんなことを・・・?」


「まだ早いのだよ。」


「早い・・・?」


「キミ達がこの島で集めだした宝玉。
 その宝玉がキミを本当に人間に戻すと言うのなら、
 それは私とって非常に都合の悪いことなんだよ。
 キミ達には、まだ魂を喰らってもらわなくてはいけないのだから―――。」


そういうと、黒いローブが左腕を真っ直ぐに掲げました。
何も無い空間から黒い液体が染み出すように現れると、
一本の大きな鎌を作り出します。


「と言うわけで、ここらで一旦しきりなおしにしよう。」


危険を感じた私は、膝を使って、
しゃがんだ状態から全力で後ろに飛び退きました。


「おそいネェっ!」


黒いローブが水平に真横から大鎌を振りかざします。
それは私の首をめがけて、真っ直ぐに迫ってきました。


「っ!?」


ああ、ちょっと遅かったかな。
諦めと突き刺さるような恐怖で目を閉じた私の耳に、
撃ちつけるような金属音が響きました。


「―――惜しかったなぁ。」


私の右の首筋に触れる大鎌。
少しだけ皮に食い込み、そこから少しだけ血が零れ落ちました。
長く伸ばしていた白い髪は鎌によって切り取られ、風に流されていきました。
まだ私の首に喰らい付こうとしている大鎌を止めているのは、
一本の黒い大剣でした。


「この子から離れろ、下衆が。」


小手を大剣の峰に押し付け、大鎌を押し返します。


「―――ネクロ。」


「スマン、寝坊した。」


黒い甲冑を着込んだネクロは、大剣をゆっくりとおろすと、
背中越しに私を見つめました。


「お前がどこまで信じているかは解らんが、いずれ話そうとは思っていた。」


「・・・。」


「驚いただろうが、コレが言っていることは本当だ。」


だが―――。
ネクロはゆっくりと黒いローブへと視線を戻し、
右手の剣を突き付けました。


「随分と都合のいいことだな。
 私達が自力で取り戻した記憶を、また狩りにくるとは!」


「おやおや、そちらこそ、随分な言い様だねぇ。
 私のおかげで、今まで生き長らえてきたというのに。」


「ほざけ。
 その下らん欲とやらのために、この子に業を背負わせたこと、
 乾くことのない血への衝動で苦しめたこと、
 私は許さんぞ。」


「下らないとは心外だ。
 元来、我々は欲求に正直な生き物なのだよ?
 私の知識欲を満たすためには、仕方の無いことだ。」


「ふん、その知識欲とやらのために、一体どれほどの人生を狂わせた?
 その生を静かに終えようとしている者に、どれほどの苦痛を与えた?」


「キミは知りたいとは思わんかね?
 人が自らをどれほど犠牲にすることができるのか。
 極限の中でどれほどの理性を保って居られるのか。
 不朽の愛とは本当に存在するものなのか。
 これは純粋な興味だよ。
 本来なら利己的なはずの生物が、他のために自らを犠牲にする。
 憐憫か、罪悪感か、打算か、陶酔か。
 無償の愛とはどこに起因するものなのか。
 不完全な人間が、完全な愛など持とうはずも無い。
 ならば、無償の愛などと言うものは、
 その存在すら、慰めが創り出した虚構ではないのか?
 ああ難解なり。実に難解なり!
 しかし、私はそこに生物としての摂理を、
 欲に飢えた人間の摂理を見出したいのだよ―――!」


黒いローブが大鎌を両の手に構えます。


「―――ふん、貴様には到底解らんことだよ。
 人と言う生き方を読み違えた貴様にはな!」


ネクロは、剣を後ろ手に払うと、体勢を低く落としこみ、
あらん限りの力で黒いローブへと駆けていきます。


今、二つの剣戟が、ぶつかり合いました―――。

拍手

PR

2010/07/02 23:05 | Comments(0) | TrackBack() | 未選択

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<日記-EP3- | HOME | 日記-EP->>
忍者ブログ[PR]