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2024/11/22 08:29 |
日記-EP3-


この指は愛する人のために

この目は愛する人のために

この血もこの肉もこの骨も

このすべては愛する人の幸せのために


「随分と強くなったものだねぇ」

「貴様のように、五百年間遊んでいたわけでは無いからな!」

けたたましい金属音を上げて、ぶつかり合う得物。
一撃一撃に、渾身の力を込めて振り下ろされる大剣を、
大鎌の柄が受け止めます。
胴を切り離さんと、真横に薙いだ一撃を、
その身をよじらせながら、黒いローブが避けました。

「まったく、節操がないねぇ。」

「貴様相手に、手を抜くほど、愚かではないのでな。」

剣を振りぬいたネクロが呟くと、
黒い大剣が、青白い炎を放つ二本の短剣に姿をかえました。

「ほう―――。」

「遅いっ!」

大剣を振りぬいた勢いのまま、身体を半回転させ、
逆手に握った短剣を、黒いローブに衝き立てました。
短剣に宿っていた炎は勢いを増し、黒いローブを飲み込むように燃え盛りました。
全身を包んだ炎は、黒い布地を炭へと変え、ローブをボロボロと崩していきます。

「・・・それが今の貴様の姿か。
 醜いな、メフィスト―――。」

崩れ行くローブの中から、徐々に人影が姿を現します。
固く黒いヒヅメ
節々が出っ張った無骨な指
身体には呪紋が刻まれた鎧を着込み
頭には大きくねじれた角
顔に肉はなく、ただ剥き出しのままの山羊の頭蓋骨が、口元をゆがめて笑っていました。

「名前を覚えていてくれるとは、光栄だよ。」

「前に顔を見たときは、少なくとも人の顔だったと思うがな。」

「私もこの島でいろいろと発見があってね。
 この宝玉というのも、なかなか研究心を掻き立てられる。」

メフィストと呼ばれた魔物が、自分の胸の中央を指差します。
そこには、鎧と身体にめり込むように、濁った光を放つ石が埋め込まれていました。

「それは、七つ目の・・・。」

「そのとおり。
 なかなか面白いものだよ、コレは。
 最初はただの魔力の塊かと思ったが、
 使いようによっては、生物の組成を変化させることも出来る。
 賢者の石、とでも言おうか。
 この島の不可解な生物たち、エキュオスもどうやらコレの影響というところかな?」

「ついに己が身にまで手を加えるようになったか。
 過ぎた力は、身を滅ぼすぞ。」

「クククッ、面白いことを言うねえ。
 ならば、キミも同類ではないか。
 この宝玉の力を使って、その魔物の身体を人間に戻そうと言うのだから。
 キミが魔力を失ったら、どうなるか解っているのかね?」

「ふん、そんな些細なこと、五百年前から覚悟している。」

「どちらにせよ、私もキミ達の持つ、六つの宝玉には興味がある。
 キミ達を"直す"ついでに、それも頂いていくことにしようか。」

「利害が一致したな。
 貴様をここで倒し、その宝玉を奪い取るまでだ。」

「それでは、遠慮なく―――!」

メフィストが勢いよく地面を蹴り、ネクロに向かって跳躍します。
身体を二つに裂かんと、ためらい無く大鎌を振りかざしました。

「―――!」

ドン、という轟音とともに、ガラス様なヒビを走らせながら、
地面が大きく円形に沈み込みました。

「ククッ、今のを受けなかったのは正解だよ。」

「重力場か。」

「圧倒的な質量、エネルギーを収縮して叩きつける。
 触った瞬間にペチャンコさ。
 さぁ、無様にひしゃげるが良い!」

軽々と振るわれる大鎌がネクロに襲いかかります。
その軌跡を太刀風三寸で躱していきます。

「どうしたんだね?
 逃げてばかりでは、私は倒せんよ?」

「ほざけ・・・!」

迫り来る大鎌を、身をよじり、かがめ、
全身を使って避けていきます。

「まったく、キミは逃げるのは上手だねぇ。
 だが・・・。」

突如攻撃の手を止め、メフィストが薄暗く光る眼で私をみつめました。

「彼女はどうかな?」

そう呟くと、メフィストはこちらに向かって勢いよく跳躍しました。

「!?」

不意を付かれたネクロが、全力で私とメフィストの間に割り込もうと地面を蹴りました。
しかし、それを見計らったのように、メフィストはネクロの方へ体を反転させ―――

「ほぉら、残念!」

「くっ・・・!」

ドン―――。

辺りに轟音が響きました。
地面が裂け、えぐり返ります。

「―――なるほどねぇ。」

斬撃が、肉を割り、骨を砕き、身体を潰し切る。
そう思われました。

「忘れたわけじゃないだろう。
 私の身体は灰で出来ている。
 そんな太刀筋では、私は斬れんよ。」

身体を押し潰すはずだった大鎌は、
薄く円形に広がった黒い盾で受け止められていました。

「重力場を粒子化で受け流し、外側に発散させた、というわけか。
 なるほど、面白いことを覚えたね・・・だが!」

メフィストが不意に大鎌から手を離すと、
盾に受け止められていた大鎌が一瞬で霧散しました。

「こいつは避けさせんよ!」

黒い霧となった鎌が収束し、数本の帯となりました。
まるで意識を持ったかのような帯は、
間髪を入れず薄い盾へと伸び、ネクロの身体ごと、貫きました。

「がぁッ・・・!?」

腕、脚、腹―――。
身体のいたるところに穴を空けた帯は、そのままネクロに絡み付きました。

「忘れたわけじゃないだろう。
 キミのその力は、元々は私が与えたものだということを。
 所詮、子は親には勝てないのだよ?」

「ふざけたことをッ・・・抜かすなッ!」

「まだ口は達者のようだねぇ。
 ならば、頭を吹き飛ばしてあげようか!」

メフィストが右手に魔力を集中させます。
黒い重力の弾が、勢いよくネクロに向かって放たれました。

「ネクロっ!」

爆裂音。
恐怖で硬直していた私が力を振り絞って揚げた叫び声を、
圧倒的な量で破壊音が消し去りました。
砕けた岩と砂埃が、一面を覆います。

「―――まったく。」

爆音の後、鼓膜が麻痺したような沈黙の中。

「タフな男だねぇ。」

落ち着き始めた砂埃の中から、人影が見え始めました。

「だが、最早、外甲冑を再生できないほど、消耗している。」

地面に這い蹲りながら、それでも懸命に両腕で身体を起こそうとしています。
全身を包んでいた黒い甲冑は剥がれ、
むき出しになった肌からは所々赤黒い血が滴り落ちています。
兜は全て砕け散り、黒い髪の青年が、歯を食いしばりながら、
目の前で、見下ろすように佇む魔物を睨み付けていました。

「久しぶりに顔を見たね、ネクロ=アッシュ=マキシリア。
 いや、マーキス=マキシリア、と呼ぼうか―――?」

「貴様・・・がッ・・・その名で・・・ッ
 俺・・・をっ・・・呼ぶな・・・ッ!」

その男は、五百年前に死んでいる―――。
息も絶え絶えに言葉を放つ彼。

マーキス=マキリシア

それが、私が初めて知った、兄の名前でした―――。

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2010/07/02 23:12 | Comments(0) | TrackBack() | 未選択

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